定期預金と認知症

口座名義人が認知症だと分かった場合、銀行は定期預金口座を凍結してしまいます。預金者の財産保護のためですが、代理人による定期預金の解約は断られるので、たとえ家族でも定期預金からお金を引き出せなくなります。

定期預金が解約できない

日本人の平均寿命が延びるのと同時に、認知症を発症する方が増えています。そうした認知症患者の増加に伴って、近年では認知症になった方の定期預金の解約が問題になっています。必要に迫られて認知症患者の定期預金をご家族が解約しようとしても、銀行側に口座名義人が認知症だとわかった場合、代理人による解約を断られるからです。

銀行は定期預金の解約の際には、窓口に解約手続きに来た依頼人が預金者本人であるかどうかを確認しなければいけません。防犯の面で、定期預金が勝手に第三者によって引き下ろされるのを防ぐためです。通常は、定期預金の解約で銀行窓口に来た方には、免許証など写真付きの身分証明書の提示を求めます。口座名義人以外の方が代理人として定期預金の解約手続きに来た場合は、通帳もしくは預金証書、印鑑、口座名義人本人が書いた委任状、代理人の身分証明書の提示が求められます。場合によっては、電話による本人への確認が行われる場合もあります。最近では不正や詐欺などといった事件に発展するケースも増えているため、銀行側としても慎重になっています。

口座名義人が認知症になった場合

口座名義人が認知症になってしまった場合は、原則として代理人による定期預金の解約ができなくなります。認知症になると本人の判断能力が低下し、意思の確認が取れなくなるからです。銀行側は口座名義人が認知症になった事実を把握すると、認知症患者本人の定期預金口座を凍結してしまいます。預金者の財産保護のためです。それが口座名義人自身の治療費の支払いのために必要であっても同じです。銀行側としては定期預金を本人の意思確認をすることなく解約することができないからです。

こうした銀行側の対応は非常に厳しいものですが、一方、家族の負担も深刻になっています。家族の一人が認知症になったとき、家庭内での介護が難しい場合などは施設への入所を検討される方も多いと思います。しかしながら、施設に入るとなると、ある程度まとまったお金が必要となります。月々の介護費用もかかります。その費用を家族が支払い続けるとなると、経済的な負担が重くのしかかるというのが現状です。そこで、認知症になった本人の定期預金を解約して支払いをしようとしますが、家族では定期預金の解約ができないという事態になります。認知症が軽いうちは本人の意識が確かなうちに一緒に銀行窓口に行くこともできます。しかし、たいていの場合は認知症がかなり進行している状態で、本人を連れて行ったとしても本人の意思確認がうまく取れないということが起きています。

例えば、認知症になる前に父親や母親から「もし自分に何かあればこれを使って」と両親名義の定期預金証書を手渡されていたとします。しかし、その預金を実際に必要としたとしても、代理人による定期預金の解約ができなければ、家族がその預金を自由に使うことができないのです。また、それが配偶者であっても解約の手続きをすることはできません。長年、夫名義の通帳を管理し、生活費の支払いを一手に任せられていた妻であっても、夫が認知症だとわかれば夫の定期預金を解約して入院費を支払うことができないのです。たとえ本人にかかる費用の支払いのために必要であったとしても、名義人本人の確認なしには定期預金を解約することはできないのです。

相続トラブルという背景

銀行側の対応が近年特に厳しくなった背景には、相続トラブルがあります。預金者本人が亡くなった後、相続が発生します。その時に、認知症になった時期以降に、相続人である家族の一人が勝手に銀行口座から預金を下ろしてお金を使い込んだとなると、相続人の間で争いが生じるケースが多発しているからです。裁判になった場合、銀行側に預金者本人の意思をきちんと確認したのかという、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)が問われます。本人の意思の確認なく定期預金が解約されていたとなれば、銀行側の責任が問われるからです。そうしたこともあり、銀行側の対応はますます融通の利かないものとなってきています。

成年後見制度を利用する

そこで、認知症家族の定期預金を解約する対策として、成年後見制度を使うという方法があります。実際に窓口で銀行員から「成年後見人申請をしてください」と言われるケースも増えています。成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害といった理由で本人の判断能力が不十分な人々を支援するために生まれた制度です。裁判所に後見開始の審判を申し立てることによって、本人に代わって法律行為(定期預金の解約等)を行う代理人(成年後見人)が選任されます。成年後見制度を使うと、認知症患者の預貯金や不動産といった財産の管理や介護施設の入所に関する契約をしたりといったことを成年後見人が本人に代わってできるようになります。成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。法定後見制度は、家庭裁判所によって成年後見人が選ばれます。法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって3つの分類に分かれます。1つは「後見」といって、判断能力が欠けているのが通常の状態である方です。2つめは「保佐」といって、判断能力が著しく不十分な方です。3つめは「補助」といって、判断能力が不十分な方です。本人の判断能力の程度により変わってきます。任意後見制度では、本人の判断能力がしっかりあるうちに、自身の判断能力が低下した場合に備えて、自分で事前に代理人(任意後見人)を選びます。任意後見契約を公証人の作成する公正証書にしておくことで、任意後見人が、本人を代理して契約等をすることができるようになります。とはいえ、任意後見人の場合は、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督を受けることになります。成年後見人に選ばれると、本人を代理して定期預金の解約などといった法律行為ができるようになります。さらに、本人が行った不利益な法律行為を成年後見人が後から取り消したりすることもできます。

家族信託契約を結ぶ

次に、家族が認知症になった父や母、夫や妻の定期預金を解約するための対策としては、家族信託という方法があります。家族信託とは、信託の仕組みを利用して資産保持者本人が元気なうちから自己の資産の管理・処分を、信頼できる家族に託すものです。つまり、使途の目的を定めて家族と財産管理の委託契約をすることで、自分の老後の生活や介護に必要な資金をあらかじめ託しておくことができる制度です。たとえば、父親が元気なうちに息子を受託者として家族信託契約を結んでおけば、父親の判断能力の低下がみられた場合に息子が父の定期預金を解約し、代わりに治療費の支払い等をすることができます。家族信託契約を結んでおけば、本人が望んでいた通りに実行されます。契約内容をしっかり定めておけば、将来にわたって本人の意図通りに資産を管理してもらうことができます。この家族信託は、平成19年9月に施行されたばかりの改正信託業法で「自己信託」という新しい形が創設されたことから、近年注目されている方法です。この制度は新しい制度なので、まだ歴史が浅く、弁護士にも浸透していない状態にあります。

家族信託と任意後見制度の違いは、家族信託が信託契約をした時点で受託者による資産の管理と運用が始まるのに対して、任意後見制度は実際に本人の判断能力の低下が認められてからになります。また、任意後見制度の場合では、裁判所の監督下に置かれ財産保全が求められるので活用しづらいという面があります。

個人財産の保護と生活費の運用

認知症患者が増えつつある今、個人財産の保護と実際の生活費の運用は大きな問題となっており、今後はますます対策が練られていく課題です。そのため、個人個人が元気なうちから不測の事態をあらかじめ想定し、ご自身の資産管理について事前に考えておくことが必要になってきています。特に、定期預金に関しては注意が必要です。ご自身の老後のためにと蓄えてこられた預金であれば、面倒を見てくれる家族が必要な時に銀行から引き出して使えるようにしておくことは大切です。またそうすることで、ご自身の治療費、介護費用の支払いがスムーズになされ、ひいては本人とご家族の保護を図ることになります。

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